TJAR2008(7~8日目)
<8月16日(7日目)>
03:00 百間洞(スタート) 岩瀬選手らは1時か2時ごろに出発したようでした。鈴木選手と3時ごろに出ようと話していたので予定通りシェルターを撤収して出発です。途中小屋でトイレに寄り、水を補給します。長いような気がしていたこの旅も、気付いてみたら7日目です。どんなに遅くても、今日中に畑薙ダムに下りる必要があります。昨年の経験から、ごく普通の疲労程度なら全く問題ない行程なのですが、筋肉が極端に損傷している場合その限りではありません。不安を抱えながらの出発になりました。 幸い、お天気は良いようです。先行していた登山者にも追いつき、遅いなりにもそれなりの速度で進むことが出来ます。兎岳のあたりでは空も明るくなってきます。雲もなく、東西南北全ての山を見渡すことが出来るようです。特に北方面の山々を眺めていると、これまで越えてきた山々が、別れを惜しんでくれているような気がしました。 聖岳の手前では、快速トレイルランナーに出会いました。TJARの選手を見るために、畑薙から入って、これから戻るようでした。 聖岳は、この旅で最後の3000m峰です。片方が切れ落ちた箇所を数箇所通過することもあり、なかなか味のある山です。ここをなんとかコースタイムの60%くらいで登ることができてひと安心です。どうやら登り足は生きているようです。 07:56 CP24:聖岳 問題は、ここからです。下り地獄が待っています。しかし、進まないことには何も始まらず、ゆるゆる下り始めます。どのくらい遅いかというと、ガイド付きの小グループに、下りで先行してもらうほど(!)です。TJARの選手として、ちょっと悲しいことではありますが、そういう状況なのです。とにかく聖平小屋までは、下り基調が続きます。小屋に続く木道が見えたときには、ホッとしました。 聖平小屋では、小屋の方々が温かく迎えてくれました。カップラーメン1.5個にご飯、お味噌汁とお漬物。久しぶりに飲んだお味噌汁が、実に美味しかったです。満腹になって、小屋を後にしました。 ここから南岳を経て上河内岳を目指すのですが、昨年はこのあたり雨に降られて視界のない道をダラダラ登るという状況で、あまりいい印象はありませんでした。しかし、今回は鈴木選手と2人で進んでいることもあり、お天気もよく、キツイなりにも順調に前進を続けます。 途中、登山道脇で昨日に引き続きお昼寝です。これもまた、至福のひと時。20分程でしょうか。鈴木選手に声を掛けられなかったら、1時間でも寝ていそうでした。 上河内岳を越えると、多少のアップダウンはあるものの、比較的歩き安い道が続きます。途中、立山でもお会いした人に再会。顔つきが変わりましたねと言われ、精悍な顔つきになったのかなと思っていたら、後日顔が浮腫んでいただけだとわかりました。ガッカリ。 13:14 CP25:茶臼小屋 この小屋にたどり着いたら、なんとなくひと安心です。小屋では、定食を食べさせてくれます。そしてリンゴも。美味しいです。胃に染み渡ります。 話は変わりますが、最近の山小屋のトイレは、ペーパーを置いてくれているところが多いです。しかし、時々置いていない小屋のトイレもあります。茶臼小屋はそのひとつです。今回、持参した地図(正確には、カラーコピーした地図)は1枚以外持ち帰っています。持ち帰れなかった1枚の使い道は... さて、茶臼小屋の方々も皆さんTJARの選手を応援してくれています。最後は、「今度は、ゆっくり来いよな~。」っと声を掛けてくれて、見送ってくれました。とても、嬉しい気持ちで、山を降ります。 とはいえ、ここからも長い下りが続くのです。とにかく、明るいうちに畑薙ダムに到着したいものです。途中、適当な枝を拾い、杖代わりに使いながら、ひたすら下ります。我慢我慢の下りが続きます。何とかコースタイムの70%程度では下れているようです。安心しつつも、先を急ぎます。 小さなつり橋が見えたら、もうひと息です。山肌をゆるゆる登れば、そこはヤレヤレ峠。北・中央・南とアルプスを縦走してきた身には、本当にヤレヤレです。 ヤレヤレ峠を越えると、大吊橋もすぐ近くです。なんとか明るいうちに渡ることができそうです。正直言って、長いこの吊橋を、疲れ果てた足で夜間に渡るのは遠慮したいものです。 無事下山です。ちょっと、安心しました。この先も長いのですけど、舗装道路ですから、ガレ場の下りに比べれば、膝には優しいはずです。もっとも、足裏には優しくないかもしれませんが。とりあえず、CPである畑薙第一ダムを目指します。 18:03 CP26:畑薙第一ダム ダムに到着すると、先着していた鈴木選手がちょうど出発するところでした。僕は、まず本部に連絡を入れて、到着時間と無事であることを伝えました。その後、ペプシコーラでひと息。ソックスを脱いで、足のケアをしてから、ロード用のソックスに履き替えます。更に、なっちゃん飲んでふた息。最後にホットコーヒーを買って、ザックに入れていざ最後のロード区間に突入です。 とにかく、しばらくは単調な道が続きます。駐車場を過ぎて暗くなって歩いていると、後ろから来る車が、大丈夫ですかと声を掛けてくれます。ありがたいことです。しかし、ここで車に乗るわけにはいかないのです。左手に川の流れを聞きながら、橋を渡り、短いトンネルをくぐり、ひたすら進みます。 白樺荘入り口では、NHKの方の出迎えを受けます。どうやら、鈴木選手、西岡選手も順調に先行しているようです。実はここで軽く仮眠をしようかと思っていたのですが、なんとなく励まされて、そのままレース続行です。 途中、道路わきに座り込んで、アルファ米を食べたり、コーヒー飲んだり。すっかり野宿野郎です。井川オートキャンプ場付近の自動販売機では、コーラでリフレッシュ。その次の自販機では栄養ドリンクでパワー充てん。次の井川の集落を目指します。 井川の集落では、さすがに眠くなり、バス停のベンチで15分ほど仮眠です。街にいるというだけで、安心して寝ることができます。しかし、長く寝てもいられないので先に進みます。眠気覚ましに、こんなものを飲んでみました。 うーん、眠気は覚めましたが、旨くはなかったです。口直しに、次の自販機で、カフェオレを飲みました。そうこうしながら進んでいると、柏倉さんなどの取材陣の出迎えを受けます。にこやかに写真を撮られて、再び漆黒の夜道へ。井川駅手前でダム方面への迂回路に向かいます。迂回路とはいえ、立派な道です。 <8月17日(8日目)> 02:47 CP27:井川ダム 闇の中にダムの明かりがまぶしく輝いています。ダムの自販機は主な炭酸系は売り切れ!残念ですが、先に進みます。ここからは、富士見峠に向けてひたすら登りが続きます。頑張って登りました。しかし、ついに眠気に負けて、道路わきでゴロ寝。坂の下に頭を向け、ザックの上に足を置いて、なるべく足を浮腫ませないように寝ます。といっても15分ほどです。しかし、この15分でかなり生き返ります。夜が明けて、アルファ米を食べ、久しぶりに見つけた自販機でサイダーを飲み、いよいよ峠です。 06:06 CP28:富士見峠 ここからはゴールまで下り基調です。しかし、膝にくるのは下りです。そして、時間が経つにつれて、気温が上がり、アスファルトが熱くなり、足を痛めつけます。延々と下ります。時々登ってくる自転車の選手たちは、皆エールを送ってくれます。実にうれしいことです。 途中、既にゴールした間瀬選手も応援に来てくれました。ありがとうございます。元気づけられました。更に畑薙に車で向かう飴本選手にもエールを頂きました。 のどかな山村の中をひたすら進みます。 しかし、景色ののどかさとは裏腹に、足裏はサハラ砂漠の上を素足で歩いているようです。熱くて熱くて仕方ありません。休んでアイシングしたいのですが、いったん靴を脱ぐと再び履けなくなるような気がして、我慢の前進を続けます。 久しぶりの自販機を見つけたら、そこには西岡選手の姿が。ここから2人で進むことになります。途中、平瀬という集落では蕎麦屋があるとのことで訪ねてみると、今打っている途中なので、待ってくれれば出せるとのこと。久しぶりのちゃんとした食事に、ここは腰を落ち着けることにしました。 注文したのは、ざる蕎麦大盛におにぎり2個。 打ち立ての蕎麦は実に美味しかったです。おにぎりも食べて、エネルギーは十分です。更に先を急ぎます。ほどなく安倍街道に入ります。だんだん、車や人も多くなり、街に近付いていることを感じます。 玉機橋の交差点から、進路を南に向けます。あとはひたすら南下です。途中、コーラで最後のパワーアップ。確実にゴールが近付いているかと思うと、膝の痛みも忘れてしまいます。 沿道では、昨日茶臼小屋で出会ったグループに出迎えられ、応援を受けます。追い抜いていく車からも、しばしば応援を受けます。行けども行けども、静岡の市街地に入らず、へこたれていると、応援を受けて持ち直します。本当にありがたかったです。 いよいよ市街地に入ると、コース上で、選手を待ち構えてくれている地元の人がいます。「本当に来るとは思わなかったよ。頑張ったな。もう少しだぞ。」こんな風にエールを送られると、思わず涙腺が緩んでしまいます。こうして、思い出して書いていながら、涙腺がるゆむ程です。 いよいよ市街地が近付いて、街の悪がき風の少年たちが、「頑張れよ!」と声をかけてくれます。無茶苦茶嬉しかったです。ありがとう。 16:13 CP29:静岡駅 ようやく、ここまで来ました。あとは5km程です。線路をくぐり、大浜海岸を目指します。途中、地元の人に道を確認しながら進みます。大浜街道に出たら、後はまっすぐです。途中、須田選手が出迎えに。「ゴールはすぐだ!頑張れ!」というコールに応えて、歩む速度は上がります。 公園入り口にゴールゲートが見えました。思わずそこがゴールかと勘違いし、感動のゴール....と思いきや、本当のゴールは、太平洋でした。そう、日本海からスタートして、ゴールは太平洋なのです。 17:25 CP30:大浜海岸(ゴール) 海岸のゴールゲートをくぐって、荷物を海岸に落とし、太平洋にザブンと足を着きました。そして、手を付いて、涙が流れました。どうしようもなく、涙が流れ落ちました。何がここまで自分を突き動かしたのか。それは、前回大会に出場した選手たちの輝いた笑顔でした。その感動をいま、自分も共有することができたことが、無性に嬉しかったのです。 この2年間の想いが凝縮された瞬間でした。辛さも、痛みも、喜びも、嬉しさも全ての感情が一点に凝縮されていた気がします。 何も考えずに海に飛び込んだので、ポケットに携帯電話や財布が入っていることは忘れていました。後であわてて取り出しました。 海岸では、既にゴールした選手たち、スタッフの人たちにも祝福を受けます。こういう時、遅いゴールの方がお得ですね。嬉しかったです。シャンパンのボトルを受け取り、同時にゴールした西岡選手とシャンパン・ファイトと思いきや、意外と泡が出ず、全部僕が飲んでしまいました。 間瀬選手からビールを手渡され、それを飲みながら、嬉しさがこみ上げてきました。2年間の長い旅が終わったような気がしました。長い様で短い旅でした。この7日間と17時間25分は、実に濃い時間でした。これまでの41年間の人生の中で、最も濃い時間だったかもしれません。 同時に、夢のような時間でもありました。いい旅の仲間に恵まれました。この仲間の存在なくして、完走はあり得なかったと思います。本当にいい旅でした。この旅を共有できた仲間に、心から感謝したいです。本当に、ありがとうございました。
by makani_tomo
| 2008-08-22 18:45
| TJAR
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