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『解読!アルキメデス写本』 リヴィエル・ネッツ,ウィリアム・ノエル

『解読!アルキメデス写本』 
リヴィエル・ネッツ,ウィリアム・ノエル
吉田晋治 監訳
光文社
2,100円+税

皆さんも名前はよくご存じのアルキメデス。紀元前287年シチリア島に生れ、212年に亡くなったと言われている、古代ギリシアの数学者です。彼の生きた時代から2200年後に生きている我々が、彼の業績について知ることができているのは、彼が自身の仕事を書籍として書き残していたからに他なりません。

彼の生きていた時代、文字を読み書きする能力は、とても特殊な能力でした。限られた一部の人のみが、文字の読み書きができるという時代です。文字を書き残す媒体(メディア)は、パピルスを原料とする巻物でした。しかし、2000年以上も昔のパピルスが現代に残っているものでしょうか。答えは否。もちろん、パピルスに記された文章などは、現代でも一部残ってはいますが、その多くは失われてしまっています。では、なぜ我々は、アルキメデスの著作を読むことができるのでしょうか。それは、パピルスを原材料とする巻物から羊皮紙を原材料とした冊子本へのメディアの大転換期において、冊子本による写本が作成されたからです。

印刷技術が発明されていない時代、情報を複製するための手段は手によって書き写す(=写本)しかありませんでした。多くの巻物が冊子本に写本されたと推察されますが、その基準が何であったのかは明らかではありません。しかし、現代においてもその業績が薄れないものが多く写されたことを考えると、当時の知識人の価値観や判断は、我々に近かったのかもしれません。

前置きが長いですが、もうしばらくお付き合いください。巻物から冊子本に情報が写されたとしても、それはその後2000年の保存を約束されたものではありませんでした。様々な理由はありますが、主にキリスト教が広まるに従い、祈祷書の様な宗教的な書物が多く作られる過程において、それ以前の書籍(の羊皮紙)が再利用されたのです。その様な書籍はパリンプセストと呼ばれています。

さて、本題です。本書は、アルキメデスの著作の写本(の羊皮紙)を再利用して作成された祈祷書(パリンプセスト)が、オークションにかかった末ある事業家が競り落とし、その後ボルティモアのウォルターズ美術館の学芸員がパリンプセストに残されたアルキメデスの著作の写しを解読する過程を記録したノンフィクションです。

ギリシア古代数学に関する解説を織り交ぜた構成になっており、やや難解なのですが、なぜアルキメデスの著作が2200年後に議論になっているのか、また羊皮紙にごく薄く残った文字を如何にして解読するかという作業についてはとても興味深く、引き込まれました。

一般向けの書籍ではありませんが、情報を如何に後世に残すか、後世の人々は、如何にして情報を復元するのか、そういうことを考えずにはおれない書籍でした。そういう意味では、このブログもどこまで情報が残っているのでしょうか。他人任せではなく、自分で情報を残す方法(あるいは残さない方法)を考えなくはいけなくなる時代は、すぐ近くまで来ているのかもしれません。
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by makani_tomo | 2008-09-05 01:49 | 読む
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