走る!飲む!読む!

『百年前の山を旅する』 服部文祥

『百年前の山を旅する』
服部文祥
東京新聞(2010年10月)
1,714円+税

これまでも度々紹介している、服部文祥さんの最新刊です。

今回の本は、著者の得意とするサバイバル登山の経験を活かして、百年前の登山者の山行を追体験した記録です。ちなみに、生活のためや修行のためではなく、純粋に(趣味で)山を登る様になったのは、欧米でも日本でもそう昔の話ではなく、日本の場合でいうと明治時代中期のことです。

本書では、いくつかの山行を紹介しています。中でも面白い2つの山行を紹介します。1つ目は1912年のウェストンによる奥穂高登頂の追体験です。ウェストンは日本アルプスに登り、それを世界に紹介した人物であり、現在の日本登山界の創始者のひとりです。彼は、地元に住む上条嘉門次を案内人にして、上高地を経由して奥穂高岳に向かいます。著者は、当時の上条嘉門次の装備(に近いもの)を持って山に臨みます。当然、ゴアテックスの雨具もなければ、火器もありません。そして、登るルートも当時の足跡をたどっているため、現在の登山とは異なり、藪の中を進むことになります。

もう1つの山行は、「黒部奥山廻り」の足跡をたどるものです。「黒部奥山廻り」とは、江戸時代に当時の加賀藩が、領地確保と資源管理のために、現在の黒部川から後立山連峰へと藩の役人を派遣したものです。その記録は、断片的に残っているものの、詳細なルートは不明です。本当に登ったかも定かではありません。しかし、古来、山に向かう道の多くは沢であり、おそらくは黒部川を遡上したと考えられます。そして彼も、江戸時代にしかない装備で山に向かいます。

これらの山行を通して彼が追及しているのは、当時の登山者の感覚、感情に迫るというものです。そのために彼らと同じ装備で臨み、同じ時間帯に移動し、同じ時間に露営もしています。限りなく、人間が自然に近かった状態ともいえます。その中で、感じたことは、自然に対する怖れであり、憧れであり、陶酔です。さらには、現在の環境に対する反省でもあります。

自分も、サバイバル登山ではないのですが、ある種の縦走経験の中で、山に対する憧れと畏怖を抱いていますし、一方で著者のようなテーマ性のある山行も経験したいと思っています。果たして自分は何を感じるのか?それが楽しみでもあります。皆さんに、同じような山行はお勧めできませんが、例えば学校や職場から歩いて帰ってみる、というような体験はどうでしょうか。電車がない時代に戻って、自分の体だけで移動してみるのは、江戸時代の人々の行動の追体験になりそうです。ついでに、地震などの災害時の避難訓練にもなります。これは、ぜひお勧めします。
[PR]
by makani_tomo | 2011-02-25 09:50 | 読む
<< 初!東京マラソン 『空白の5マイル』 角幡 唯介 >>



走って、飲んで、そして読んでおります。
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧